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探偵物語(36)


前回の続きです。

トラックの反対側に来ると、アスリートの更衣室やシャワールーム、洗面所が並んでいます。
建物はコンテナのような四角い規格で、日除けとベンチが付属しています。
わたしの好む工業的意匠、造作です。



何とも恵まれた施設ですが、大学には大学の思惑があって、単に学生を優遇しているのではありません。
少子化でどこの大学も学生集めに奔走しています。
施設の充実や、スポーツの振興(知名度を高める)は重要な戦略です。
大学だって、競争しているのです。

でもこのベンチに座って、ビールでも飲みながら一流のアスリートの競演を観戦したら、さぞかし気持ち良いでしょうね。
今日は、そんな想像をさせる天候です。
向こう側に見えるのが野球場で、高いフェンスが張り巡らされています。
観客席がないので、ボールが場外に出ない為の処置でしょう。



トラックを一周して、元の場所に戻ると、隣りが野球場です。
立派なボールパークですが、観客席がない。
(ネット裏に簡易なベンチが幾つかありますが。)
不思議な感じです。

野球といえば、かつては相撲と共にスポーツの人気を二分していました。
今はスポーツの一分野に過ぎません。
プロも高校野球も、往年の人気には遠く及びません。
観戦の多様化が進み、テレビをつければ、多種多様なスポーツが中継されています。

テレビにとって、スポーツほどメディア特性に合致したものはありません。
ライブ(即時性)がテレビの最大の特色であり、娯楽性もテレビにとって欠かせません。
その両者を兼ね備えたのがスポーツ中継で、視聴率が最も取れるプログラムです。
だから、テレビ局はスポーツに金を注ぎ込み、ドラマチックに仕立てるのです。

テレビがスポーツの底知れぬ利用価値に気が付いたのは、多分東京オリンピックではないでしょうか。
野球や相撲ではなく。
これは探偵の推理ですが、さほど間違ってはいないと思います。
即時性が衛星放送の発達で全世界に及び、ドラマの舞台がグローバルになりました。
何気なくつけたテレビのゴルフ中継が、アメリカであっても、誰も驚きません。
スポーツに、国境はないからです。
(国威発揚は、ありますが。念の為。)



そろそろ休憩を終えて、仕事の時間です。
入口の脇には、公園に付き物のモニュメントが建っています。
プレートを見ると、わたしでも知っている著名な立体作家の作品です。
(ここで立体作家という言葉を使うのが、わたしがありふれた探偵とは異なるところです。念の為。)
モニュメントに金をケチらないとは、見上げた大学です。
競技場が立派なら、モニュメントも立派です。

スポーツも市場も近代の装置ですが、大学もテレビも近代の装置。
そして、芸術も近代の装置。
しかし、ネコは近代の装置ではない。
よって、探偵は近代から遠く離れた場所に、ネコの居場所を探しに行くのでした。