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「布」


わたしは、布です。
今日は、わたしの友人とわたしの話をしてみたい思います。
よかったら、聞いて下さい。

わたしには友人がたくさんいます。
その中でも、特に仲の良かった彼女のことを話しましょう。
ちょっと、悲しい話ですけど。



彼女です。
もともと彼女の住まいは道路ですが、今は棄てられた身です。
でも、相変わらずの美しさです。
メッシュのブルーが、道端で喩えようのない彩りを放っていますね。

彼女は化学系。
わたしは天然と化学のハーフですが、彼女の色の美しさに憧れています。

彼女を棄てたのは、アイツです。
彼女に飽きたアイツは、彼女をボロ布のように棄てたのでした。



画廊の椅子で、主人のような顔をしているアイツです。
アイツの本当の主人は画家で、今は食事か何かで中座しているのでしょう。
ご主人の個展で、主役のようにふるまっているアイツ。
たかがジャケットのくせに、尊大で、本当にイヤなヤツです。
こんなヤツに棄てられた彼女は可哀想ですが、いずれ長続きはしなかったでしょう。

わたしは、幸せです。
(彼女には悪いと思うのですが。)
わたしのカレは布ではありませんが、頼りがいのある素敵なヒトです。



カレにまとわりついている、わたしです。
少し恥ずかしい写真ですが・・・・。

わたしの住まいは浴室で、カレも同じ浴室の住人。
仕事も同じですから、職場恋愛ですね。
わたしの夢は、一生をここでカレと過ごすことです。
わたしがお役ご免になる時は、カレもお役ご免。
一緒に、ゴミ箱行きです。



カレです。
カレったら、すっかり照れちゃって、写真がピンボケ。
本当は、もっと良いオトコなんですよ。
いけませんね、いつの間にかノロケ話になってしまいました。
ご容赦を。

わたし達のような異種恋愛は珍しくありませんが、やはり布同士の恋愛が多いのは事実です。
三つの布が恋愛するケースだってあります。



一番上はハイネックのトレーナーで、その下がチノパンツ、一番下はポリエステルの部屋着です。
折り重なるようにして、すっかり寛いでいる三つの布。
気取りがなくてカジュアルな彼らは、誰もが羨む仲良しです。

わたし達布は、自分達が恋愛するだけではなくて、人間や他のモノの恋愛のお手伝いもします。
例えば、こんなカップルの。



シーツ(冬用です)の上で寄り添っているのは、二つのリモコン。
左がVHSデッキで右はDVDのプレーヤーです。
陽の光を浴びて、気持ち良さそうですね。
リモコンの愛を優しく包んでいるのが、わたし達の仲間のシーツです。


今これを読んで下さっている、貴方。
貴方の身体を包んでいるのは布です。
貴方の顔や身体を優しく洗ったり、拭くのも布です。
夜寝るときも、布に包まりますね。
窓にはカーテン、床には絨毯、椅子にも布が張ってありますし、玄関や洗面所にはマット。
いたるところに、わたし達はいます。

今日は、そんなわたし達の恋愛の話をさせていただきました。
次にお会いするときは、又違ったお話で。